海外で働くための選択肢として、日本人ができる仕事の一つが「日本語教師」。
ですが、求人の数は少なく、日本語教師として働けるようになるまでには長い道のりがあります。
事前に日本語教師養成講座を修了していたわけでもなければ、国語の教員免許や特別な国家資格を持っていたわけでもなく、大学の主専攻・副専攻で日本語教育の専攻もしていません。
仕事を見つけた方法も一般的ではありませんが、逆に日本語教師の仕事を探している人にとっては「なるほどその手があるのか!」とヒントになると思います。
そこでこのページでは、
- 資格がなくても海外で有給の日本語教師の仕事を見つけた方法
- 海外の日本語教師の仕事事情
- 日本帰国後に日本語教師として働くために押さえるポイント
についてお話ししたいと思います。
目次
【前提】海外での日本語教師の需要は少ない
海外での日本語教師の需要は、ひと昔前に比べると少なくなりました。
日本語教師として安定したお給料をいただき、日本語教師の仕事だけで食べていくポジションを得るためには、大学院まで行かないと厳しいのが現状です。
英語圏の現地校や大学で働ける人たちは一握り、狭き門となっています。
それでも東南アジアは英語圏に比べるとまだ需要があるようで、マレーシアの大学で日本語教師の仕事をしていた友人は、「1年で200万円の貯金ができた!」と話していました。
この状況からみると、どの国で日本語教師をするかで待遇が変わると言えます。
カナダの日本語教師求人の応募条件・必要な資格
カナダの日本語教師の求人では、次のような応募条件をクリアしている人が対象となっているケースがほとんどです。
- 420時間の日本語教師養成講座修了者
- 大学で日本語教育の主専攻、もしくは副専攻修了者
- 日本語教育能力検定合格者
また、日本語教師として働くには、以下のような方法が一般的です。
- 現地の教育機関で働く
- 日本人学校(日本語学校)で働く
- 日本語教師ボランティアをする
- 個人で生徒を募集する
1.現地の教育機関で働く
小学校・中学・高校・大学などの現地の教育機関で働くことは、日本語教師として安定したお給料を得る方法です。
専任で働いている先生は、国語の教員免許を持っている中堅~ベテランの先生、大学で日本語教育を専攻、他国での日本語教師経験者といったバックグラウンドを持つ方が多い印象。
日本語教師のポジションに行きつくきっかけは、現地の大学教授や専任の日本語教師のアシスタントから始めたケース、日本の大学の教授や教育団体の職員に「こんな仕事あるよ」と紹介されて海外に派遣されたケースなど様々です。
海外(現地)の大学教授のアシスタントは、日本人や日本語ネイティブじゃなくてもできる上、日本語学習が盛んなカナダには高レベルな日本語を操る現地の人も多いため、人脈がカギとなります。
2.日本人学校(日本語学校)で働く
日本人学校(日本語学校)で働く日本語教師は、日系2世や3世の子供たちへの継承語としての教育や、保護者の海外転勤で帯同している子供たちに日本語教育を行っているケースが多い印象です。
また、「補習校」という位置づけの学校もあります。
土曜日だけの勤務だったり、放課後から夜にかけて授業をするパートタイムで働いている方がほとんどです。
求人は、日本語クラシファイドに掲載されているものをよく見かけます。
大抵の場合、必要条件には
※下記のいずれか1つ以上を満たすこと
- 420時間の日本語教師養成講座修了者
- 大学で日本語教育の主専攻、もしくは副専攻修了者
- 日本語教育能力検定合格者
とあるので、資格なしだと書類選考を突破することすら難しいかもしれません。
3.日本語教師ボランティアをする
カナダの仕事探しで使うクラシファイドには、日本語教師ボランティアの求人募集も掲載されています。
ボランティアなので報酬はなく無給となりますが、
- これから日本語教師としてのキャリアを積みたい人
- 経験として海外で日本語教師をしてみたい人
にとっては「やってみよう!」と思えるかもしれません。
4.個人で生徒を募集する
日本語教師の仕事は、学校などの組織に属することなく、個人で生徒を募集することができます。
また、プライベートで日本語を勉強したい現地の人が、日本語の先生を探すために募集広告を出していることもあるので、それに応募してもいいかもしれませんね!
【体験談】資格なしでカナダの日本語教師!仕事を見つけた方法
「日本語教師になりたい!」と思ったら、求人に応募することがまず頭に浮かぶと思います。
ですが、私が資格なしでカナダの日本語教師の仕事を見つけられたのは、「現地の語学学校」に「履歴書配り」をしたからです。
元々は日本語教師の仕事を探そうと思っていたわけではなく、語学学校の日本マーケットの担当(営業&マーケティングポジション)狙いで履歴書を配りました。
その中の1つの語学学校から連絡があり、「日本語教師の仕事に興味ない?」とお話をいただいて採用されたという経緯です。
日本語教師の仕事を見つけた後に、日々の授業をこなしながら日本語教師養成講座を受講したので、私の場合順番が逆でした。
日本語教師として働くことを考えると、現地の教育機関や日本人学校(日本語学校)の求人を探すことが一般的なので、日本語の会話力を伸ばす「語学学校の日本語教師」はある意味穴場だと思います。
また、学校が日本語教師を募集するときは求人広告を出しますが、履歴書を配りに来た人の中でも「過去に言語を教えた経験がある人」なら面接に呼ばれる可能性があります。
しかし海外では、飛び込みで履歴書を配る就職活動方法が普及しているので、求人が出る前にポジションが埋まることもあります。
日本では経験するチャンスがないと思うので、トライしてみると面白いです。
海外の日本語教師の給料や仕事内容
それではここから、私が経験したカナダでの日本語教師の給料や仕事内容についてお話しします。
1.語学学校の日本語教師の雇用形態
語学学校の日本語教師は、日本で言う「英会話スクールの英語講師」のような位置づけです。
しかし、日本での英語需要と比べると、カナダでの日本語需要は少ないため、正規雇用で働けたりビザをスポンサーしてもらえるケースはほぼありません。
そのため、私が働いていた語学学校の日本語教師は、全員が非常勤講師での契約でした。
保有しているビザは、永住権保持者 50%、ワーホリビザ保持者 33%、他社の就労ビザ保持者 13% がおおまかな割合です。
2.語学学校の日本語教師の時給と給料
私が日本語教師として働いていた語学学校の給与形態は、スタート時の時給はCAD$21で、半年勤めるとCAD$23に上がるというシステムでした。
クラス人数は最大10人で、6人を超えると生徒1人につき時給が$2プラスされるので、最大時給はCAD$32となります。
また、日本人学校(補習校)の先生の話だと、日系の日本人学校では1クラスの生徒数が何人でも時給が一律らしいので、生徒数によって時給が変わる語学学校の給与形態はありがたいです。
3.語学学校の日本語クラスのレベル・授業回数
語学学校の日本語クラスはレベル1~12まで、その上にJLPT準備コース(日本語能力試験準備コース)があり、合計13レベルでした。
それぞれのレベルは1~2クラスしかなく、5~6人の先生が週に2~4レッスンずつ担当する形で回していました。
生徒のほとんどは現地の社会人なので、授業の時間帯は18:30~20:30。1回のレッスン時間は2時間で、授業回数は1ターム(2ヶ月)で8回です。
4.日本語教師の仕事内容
私が働いていた語学学校の日本語教師の仕事内容は、以下となります。
- 学校教材を使っての日本語の授業
- 参考資料・授業教材の準備
- テストの作成と採点
- 欠席した生徒へ授業内容のメール・宿題の連絡
- タームごとのレッスン概要の作成
- 日本語会話アクティビティ・日本語カフェなどのイベント企画(任意)
この中で時給が発生する業務は「授業のみ」ですが、各タームごとに「セルフエバリュエーション(自己評価)」と「レッスン概要の作成」という仕事があります。
それぞれの業務ごとの単価はCAD$30だったので、1時間程度で終わらせることができれば割のいい仕事です。
5.日本語を学ぶ生徒の特長
日本人学校や補習校の生徒は、日本人の親を持つ日本語を継承したい児童か、転勤してきた日本人家庭の児童になりますが、語学学校の日本語クラスの生徒は、ほとんどが日本語を勉強したいローカルの大人の生徒です。
日本語を学ぶ理由には、以下のようなものがあります。
- 日本が好き
- 日本の文化に興味がある
- 仕事や旅行で日本に行く予定がある
日本語でコミュニケーションを取ったり、日本人と日本語で会話ができるようになりたくて通っているので、「日本語を話せるようにする授業」を提供しなければいけません。
6.日本語の授業を行う時の言語【英語?日本語?】
「あいうえお」すらわからない現地の大人が、日本語を話せるようになるためには、まずは最低限の「話し方」を覚える必要があります。
レベル1のビギナークラスで教えるなら、使える単語(生徒が理解できる単語)も限られているで、文法の説明は英語になってしまうのが現実です。
もちろん、生徒が理解できなくても、日本語でしか授業をしない先生もいます。
【海外で日本語教師】メリット、デメリット、しんどいこと
現地の語学学校で日本語教師として働くメリット・やってみてよかったと思うこと、デメリット・しんどいことを紹介します。
海外で日本語教師のデメリットやしんどいこと
- 日本語教師の仕事だけでは食べていけない
- 授業準備の時間はお給料が発生しない
- 【授業をする難しさ】生徒のやる気の程度がバラバラ
- 英語力が低くて評価を下げられることがある
1.日本語教師の仕事だけでは食べていけない
非常勤の日本語教師は、それだけで食べていくことはできません。
授業数が少なく、フルタイムの雇用が生まれる程の需要がないので、ほとんどが掛け持ちで仕事をします。
チップをもらえることもなく、インセンティブ制度もないため、レッスン以外でお金を生み出す方法がないのです。
2.授業準備の時間はお給料が発生しない
日本語教師が薄給の1つの理由として、授業準備の時間はお給料が発生しないという理由があります。
授業に使う教材を準備する時間や、各授業の細かなレッスンプラン二ングの時間は無給…。
日本語教師の仕事を始めたばかりの頃は、授業時間よりも授業準備に時間を取られるので、時給$32でも割に合いません。
もちろん、一度レッスンプランを確立させたり教材を作ってしまえば、同じものを使い回しすることができます。
ですがそれまでは、土台作りが必要です。
3.【授業をする難しさ】生徒のやる気の程度がバラバラ
海外にいる現地の人が日本語を学ぶ理由は、「日本に旅行に行くから」「彼氏が日本人だから」「仕事で日本に行くから」など様々。
生徒のやる気の程度がバラバラだったり、日本語の授業に求めることにも違いが出てきます。
- 日本語でコミニケーションが取れるレベルまでやってほしい
- 文法とかひらがなとかどうでもいいから、使えるフレーズを手っ取り早く教えて欲しい
- ゆる〜く、の〜んびり、楽し~く、日本文化の紹介やうんちくも織り交ぜながら日本語の授業をやって欲しい
様々な需要を持つ人が1つのクラスに集まると、不満を抱える人が出てきても不思議ではありません。
そのため、次のレベルに上がる時のドロップアウト率は高めです。
4.【日本語教師なのに!?】英語力が低くて評価を下げられることがある
日本国内の日本語学校の留学生は英語圏出身者だけではないため、生徒間の共通言語は「日本語」となり、学校の授業言語も「日本語」になります。
ですが、海外で日本語教師の仕事をすると、生徒により理解してもらうために「英語」を使わなければいけない場面も出てくるのです。
ある程度レベルが上がってくると、英語で説明する機会も少なくなってきますが、それでも「先生の英語力が低くて説明がよくわからない」と評価する生徒もいると聞きました。
私の同僚がその評価を受けた時は、それ以降「日本語の授業で絶対に英語は使わない」とスタンスを変えたので、100%日本語だけでレッスンするか?英語も交えてレッスンするか?に正解はなく、先生ごとのスタイルになります。
海外で日本語教師をするメリット・やってみてよかったこと
日本語教師の仕事はしんどいこともありますが、メリットややっててよかったと思うことも、もちろんあります!
- 英語力が伸びる
- 生徒の幅が広がる
- 現地の人たちと人脈(コネクション)ができる
- 生徒からのフィードバックでやりがいを感じる
1.英語力が伸びる
日本国内の日本語学校の授業は基本的に日本語で行いますが、海外の語学学校では、英語で日本語を教える「間接法」で授業を行うことがあります。
もちろん、日本語だけで授業をする先生もいますが、日本語が全くわからない英語ネイティブの生徒が相手のため、日本語の文法や表現の意味を英語で説明しなければ伝わらないのが現実です。
やさしく・相手に理解してもらいやすい「間接法」の得られるメリットとしては、必然的に英語力が伸びる環境に置かれること!
ある程度の英語力を持って海外に行ったとしても、英語ネイティブの生徒に英語で授業をすることは簡単なことではないですし、最初は苦しいですが、海外で生活するなら英語力は必要なので、理想的な環境です。
2.英語で日本語の授業ができると生徒の幅が広がる
日本語教師は必ずしも「英語」ができる必要はありませんが、日本語と英語の両方でレッスンができると生徒の幅が広がります。
英語で授業ができると、日本語オンリーの授業を希望する生徒にも、英語を交えた授業を希望する生徒にも対応できるようになります。
オンライン授業が普及したことにより、日本語教師の活躍の場は世界中に広がりました。
日本国内だけに限らず活動できれば、やり方次第では「日本語教師」だけで食べていくことも不可能ではありません。
3.現地の人たちと人脈(コネクション)ができる
外国人の私たちが現地のコミュニティーに入っていく事はなかなか難しいですが、日本語教師をすることによって、「日本語クラス」というコミュニティーができ人脈(コネクション)になります。
同じ年代の現地の人たちから得られる情報やヘルプは、日本人コミュニティーで得られるものとは別物です。
4.生徒からのフィードバックでやりがいを感じる
現地の語学学校の評価システムでは、フィードバックや生徒の声をダイレクトに受け取ります。
- もう少し○○してほしい
- こんな方法があるといい
- 授業は楽しいけど私の目的にはちょっと合わない
低い評価やネガティブなフィードバックはほんの一握りで、基本的には上記のような要望・感想・授業をよくするヒントなどをもらうことができます。
私は日本語教師になって3週間で「辞めよう」と思ったことがありましたが、ビザの期限まで続けることができた理由は、
「君が先生じゃなければ次のレベルにサインアップしない」
「先生の授業がいいからまだ日本に帰らないでね!」
という生徒からの声です。
外国人として海外に行き、現地の人に評価されたと実感できることはかなり自信になりますし、やりがいも感じます。
資格なしで仕事を見つけても日本語教師としての勉強が必要
海外の現地語学学校では、資格なしでも日本語教師として働くことができます。
ですが、日本語教師として働くうえで「日本語の教え方」の勉強が必要です。
教え方がわからないと、「低評価」「離脱」「収入減」という形でそのまま全部自分に返ってきます。
学校教材も日本語の教育機関(日本語学校や大学)で使われているものと同じ教科書のため、完全オリジナルのレッスンをすることはできません。
私の場合、以下の方法で日本語の教え方を勉強しました。
- 授業がない時間帯に日本語教師養成講座を受講する
- JLPTクラス担当のプロの日本語教師の授業を見学させてもらう
- 日本語教師の研修に参加する
日本帰国後も日本語教師をするなら「資格なし」では厳しい
日本帰国後に就職活動をしてみて、日本語教師のキャリアを構築しようと思ったら、「資格なし」のままでは厳しいと感じました。
有給の日本語教師の求人は、「有資格者」を対象にしているものがほとんどです。
社会人になった後に大学に通い直して日本語教育を専攻・修了することは現実的ではありませんが、下記2つのルートなら現実的な方法と言えるでしょう。
- 日本語教育能力検定に合格する
- 420単位時間以上の日本語教師養成講座を修了(※4年制大学の卒業資格が必要)
1.日本語教育能力検定に合格する
日本語教育能力検定試験に合格すると、日本語教育の基礎的な専門知識を保有している証明になります。
合格率は20~25%前後となり、難易度は高めと言われていますが、最難関ではありません。
メリットとしては、
- 受験者制限がないため誰でも受験可能
- 合格してしまえばそれだけで日本語教師としてのスタートラインに立てる
という2点があります。
注意点は、「試験に合格=日本語教師として教える力がつく」ではない点です。
試験は年に1回、10月に札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡の7都市で行われます。
2.420単位時間以上の日本語教師養成講座を修了(※4年制大学の卒業資格が必要)
すでに4年制大学の卒業資格を持っているなら、420単位時間以上の日本語教師養成講座を修了することが即戦力となる近道です。
日本語学校などの現場で教育実習を行うことで、実践経験を積むことができます。
また、海外からの留学生を受け入れることができる日本国内の日本語学校(告示校)で働くには、文化庁への届け出が受理された講座でなければ対象となりません。
文化庁に届出が受理された日本語教師養成講座かどうかは、文化庁の「日本語教員の要件として適当と認められる研修について届出を受理された日本語教員養成研修実施機関・団体(PDFファイル)」で確認可能です。