私がカナダに住んでいた頃、4歳から10歳までの幼少期を台湾で過ごし、地元の小学校(現地校)に通った帰国子女の友人に出会いました。
幼い頃から中国語の学習環境で育ったため、彼女の中国語はネイティブレベル。
私は、幼少期に海外に行き、日本語以外の言語を習得できた彼女の経験が「羨ましい」と思ったことを覚えています。
私自身、これまでの海外就労経験の中で何度も言語の壁に悩まされたので、「できれば自分の子供は日本語と英語のバイリンガルに育てたい」とポロッと口に出したところ、彼女に衝撃の一言を言われました。
日本語と中国語のネイティブスピーカーである帰国子女の友人の苦労と経験から、甘い考えで自分の子供をバイリンガルにすることへ反対する理由を、このページでシェアしたいと思います。
バイリンガルによくある第一言語確立の苦労
はじめに、幼少期から2つの言語に触れて育った「日中ネイティブ」の友人が教えてくれた、第一言語確立までの苦労についてお話しします。
1.【親が気づいた】この子の日本語、なんでおかしいの?
家庭内では日本語、幼稚園や小学校では中国語。
子供は適応能力が高く学ぶのも早い。彼女も幼少期から2つの言語に触れていたので、日本語も中国語もネイティブレベルになりました。
でも、大きくなるにつれて「この子の日本語、なんでおかしいの?」と親が気づいたそうです。
日本語が第一言語でネイティブなはずなのに、日本語を使いこなせていない。
「て、に、を、は」や「接続詞」をうまく使いこなせない外国人のような話し方。
でも問題は、それだけではなかったようです。
2.自分の言いたいことを日本語でも中国語でも思いっきり表現できない
日本語も中国語も日常会話は全く問題ない「ネイティブレベル」。
でも、どちらかの言語を徹底的に学習するという環境にいなかった友人は、大きくなった頃に自分の言いたいことを日本語でも中国語でも思いっきり表現できないという状態に陥ったそうです。
思ったことを言葉で表現できないことって、子供にとってはとてつもなく大きなストレス。
友人は、子供ながらに大きな不安を抱えていたと言います。
3.自分のアイデンティティーを確立できていない不安
日本人として日本に生まれ、国籍も日本なのに、満足に自分の気持ちを日本語で表現できない。
そして、中国語で学習してきたけれど、中国人ではない。
友人曰く、この状態が自分のアイデンティティーを確立できていないと感じた瞬間だったそうです。
4.日本帰国後、徹底的に日本語を勉強しなければいけなかった
友人は今ですら日本語のネイティブですし、普通に話していても、幼少期に「接続詞」や「て、に、を、は」が使えなかったとは微塵も感じません。
でもそれは、保護者の赴任期間が終わり日本に帰国した後、母語である日本語を徹底的に勉強したからだと言います。
その時の友人の心の中には、こんな決意がありました。
そう!両親が日本人で日本に住んでいるなら、第一言語は日本語ということが当たり前ですが、彼女の場合、日本語を第一言語に「する」必要があったのです。
5.自分自身を完全なる日本語ネイティブとは思えなかった
第一言語を日本語に「する」という友人の決意の裏には、自分自身のことを完全なる日本語ネイティブではないと感じていた背景があったようです。
この劣等感のような苦しさを克服できたのは、大人になってからだと言います。
自然な日本語を話せて第一言語が日本語で当たり前という、日本人なら99%以上の人が経験することを、彼女は人生の中で一度も経験できなかったのです。
日本人なのに、徹底的に日本語を勉強しないと日本語が母語にならない。
日中ネイティブならではの苦労を経験した友人だからこそ、何も知らずに「子供をバイリンガルに育てたい」と言った私に腹が立ったと教えてくれました。
子供をバイリンガルにしたいなら知ってほしいこと
もしも「子供をバイリンガルにしたい」と思うなら、先に知ってほしいことをお話しします。
1.子供が「自然に」言語を学ぶと思ったら大間違い
確かに、家で会話をする程度の会話なら自然に学ぶことはできます。
ですが、日本では6歳から初等教育を受け、「小学校」という教育機関に通い、学校の授業で国語の勉強をします。
- 辞書を使って「単語」の意味を調べ、使いながら理解していく
- 漢字の書き方や送り仮名の使い方を覚えていく
それを6年間続けたとしても、小学校6年生レベルの日本語力にしかなりません。
子供は自然に言語を学んでいるのではなくて、しっかり学習して言葉を覚えているので、家の中で日本語を話しているだけでは不十分なのです。
2.親も心を鬼にして子供に日本語を勉強させている
そう簡単に考える日本人は多いですが、海外のインターナショナルスクールや現地校通っている子供たちの親(の中でも日本語力の大切さを知っている保護者)は、心を鬼にして子供に日本語を勉強させています。
私は仕事柄、帰国子女のお母さんたちに会うことが多々ありますが、話によると、海外赴任中に家の中で日常会話をする時は、
- なるべく同じ表現を使わないように気をつけて会話をする
- 同じ意味でも違う言葉をあえて使うようにする
- 会話のトピックが偏らないよう幅広く話題を選ぶ
というように、日本に住んでいる時のような家庭内の会話ではなく、それ以上に頭を使って会話をすると聞きました。
もちろん、家庭によって考え方はあるので、すべての日本人家庭がそうとは限りません。
ですが、遊び盛りの子供を土曜日の日本語補修校に通わせる時は、(子供も大変ですが)親も心を鬼にしているそうです。
英語だけなら大学からでも遅くない
日本語と中国語のネイティブである帰国子女の友人が
と本気で大反対した背景や苦労話を聞くと、その大変さに心がズシンと重くなる…。
私はインターナショナルスクールで働き、外国人生徒や帰国子女の日本人生徒にたくさん会いました。
保護者の都合で海外に行かなければいけないなど、特別な事情でどうしても「英語」という選択肢しかないなら仕方ありませんし、もちろん教育方針は家庭によるので、子供のバイリンガル教育が悪いというわけではありません。
ですが、「今の時代は英語だから!」という理由で子供をバイリンガルにしたいのなら、幼少期から2つの言語をマスターしていく大変さをもっと深く理解する必要があります。
ただ「英語」を身に着けさせたいだけなら、高校を卒業した後に大学留学でも全然遅くはないのです。