子供の頃から日本語と英語に触れ、日本に居ながら国際的な感覚を養えるインターナショナルスクール。
日本の子供英語教育が盛り上がるにつれて、海外経験のない日本人家庭の間でも「子供をインターナショナルスクールに入れて早期英語教育をさせよう」という流れもあります。
ですが、「英語」ばかりに意識を向けがちで、インターナショナルスクールに通わせることの大変さやデメリットが見えていないということに気づきました。
そこでこのページでは、インターナショナルスクールに勤めてこの目で見た現実と、メリット・デメリットを詳しく解説していきたいと思います。
目次
インターナショナルスクールとは?
現在の日本には、日本語と英語のバイリンガル教育をする学校と、英語ができることが前提のネイティブ教育をする学校がありますが、本来「インターナショナルスクール」と定義される学校は、英語を母国語とする子どものための教育機関です。
主に「英語」で授業が行われており、「各種学校」として位置づけられています。
都道府県知事の認可を受けている施設は日本に125校ですが、日本人生徒がインターナショナルスクールで教育を受けても、義務教育を修了したとはみなされません。
日本の大学や海外の主要大学を受験する資格を得るためには、
- WASC(Western Association of Schools and Colleges、米国・西部学校大学協会)
- CIS(Council of International Schools、英国・インターナショナルスクール会議)
- ACSI(Association of Christian Schools International、キリスト教学校国際協会)
といった国際的な評価団体の認定を受けているインターナショナルスクールで、通算12年(小中高)の課程を修了することが条件となります。
現在の日本には、日本人家庭の子どもにバイリンガル教育を行うスクールや未就学児用のプリスクールも増えています。インターナショナルスクールによっては、WASC、CIS、ACSIなどの団体に認められていないのに、「加盟」という独自の表現を使っているケースがあるので注意しましょう。
また、インターナショナルスクールの教育として代表的なのは、国際バカロレア(英語名称: International Baccalaureate 略称:IB)というスイスのディプロマ・プログラムで、インターナショナルスクールを卒業した人に大学入学資格を与えることを目的とした国際的に認められた教育です。
国際バカロレアには、
- 初等教育プログラム(PYP)
- 中等教育プログラム(MYP)
- ディプロマ資格プログラム(DP)
があり、ディプロマ資格プログラム(DP)を修了して試験に合格すると、国際バカロレア資格(IBDP)を取得することができ、国内外の大学の受験資格を得られます。
インターナショナルスクールに子供を通わせる家庭の特徴
インターナショナルスクールに子供を通わせている家庭には、大きく分けて以下のような4つの特徴があります。
- 海外から日本に仕事で来る外国人駐在員
- 両親のどちらかが外国人
- 仕事の都合で海外を飛び回る日本人家庭
- お金持ちや経済的に余裕がある家庭
1.海外から日本に仕事で来る外国人駐在員
子供がインターナショナルスクールに通う家庭の多くは、保護者が海外から日本に仕事で来る外国人駐在員です。
出身国は欧米諸国や東南アジアが多く、保護者の職業は多岐にわたります。
英語圏のみならず世界中を飛び回って仕事をしていますが、どこの国に行っても教育を受けられるよう、インターナショナルスクールを選択しています。
生徒の第一言語(母国語)は保護者の出身国の言語となるため、あくまで英語は「教育言語」です。
2.両親のどちらかが外国人
日本のインターナショナルスクールに通う家庭の中には、両親のどちらかが外国人という家庭の割合も一定数あります。
外国人の駐在員ではなく、日本人と結婚して配偶者が日本に移住したケースです。
例を挙げると、
- 日本人×アメリカ人
- 日本人×イギリス人
- 日本人×オーストラリア人
- 日本人×中国人
- 日本人×イスラエル人
- 日本人×ドイツ人
- 日本人×香港人
等がありましたが、両親のどちらかが外国出身者の場合、子供の教育言語を「日本語」か「英語」のどちらにするかを考えなければいけません。
3.仕事の都合で海外を飛び回る日本人家庭
インターナショナルスクールにも、純日本人の生徒が在籍しています。
その多くは、保護者の仕事の都合で海外を飛び回っている生徒で、家での会話は「日本語」ですが、幼少期から海外の現地校やインターナショナルスクールで教育を受けてきたため、教育言語が「英語」となっている生徒が多いです。
日本人生徒でも、日本の公立中学・高校での日本語の授業について行くのが難しい場合、入学が優先されるケースがあります。
また、保護者のどちらかが将来的に海外勤務になる可能性が高い場合、幼稚園からインターナショナルスクールに入れて慣れさせておくという考えの日本人家庭もあります。
4.お金持ちや経済的余裕がある家庭
インターナショナルスクールには、両親のどちらかが外国人の子供、仕事の都合で日本に来ている外国人駐在員の子供、海外を飛び回る純日本人家庭の子供など、様々なバックグラウンドの生徒が通っています。
ですが、すべての家庭に共通していることは、家がお金持ちもしくは経済的に余裕がある点です。
保護者が弁護士や医者・会社経営者という家庭もありますが、祖父母が孫の教育費を出しているケースもあります。
また、会社員の場合でも、お勤め先の企業(外資系企業のケースをよく聞きます)が社員の子供の学費を負担してくれることもあるります。
保護者が両方とも純日本人で英語が話せない家庭の児童が通う場合、バイリンガル教育を行う未就学児用のプリスクール等に一定期間通えば、入学基準を満たすことも不可能ではありません。
しかし、初等教育や中等教育の途中からだと、
- すべて英語の入学試験に合格できない
- 保護者が子どもの学習サポートが難しい
などの理由から、インターナショナルスクールの入学試験に合格できない可能性もあります。
インターナショナルスクールのメリット
インターナショナルスクールのメリットは、以下の通りです。
- 英語で教育を受けられる
- 日本の学校では身につかない素養が身につく
- 圧倒的に視野が広がる
1.英語で教育を受けられる
インターナショナルスクールは、英語で教育を受けられる点がメリットです。
受け身の教育とは異なり、
- リサーチ
- プレゼンテーション
- ディベート
- ディスカッション
- エッセイ
など、実践的な授業が初等教育から展開されています。
知識の詰め込みや暗記ではなく、様々な分野の背景を学び、自らの意見をバックグラウンドの違う人たちと英語で共有する授業が多いです。
将来的にグローバルな環境で活躍したいと思った時、英語は「当たり前」になるのですが、「英語を勉強すること」と「英語で何かを学ぶこと」では、吸収できる知識量が異なります。
2.日本の学校では身につかない素養が身につく
インターナショナルスクールのメリットの2つ目は、日本の学校では身につかない素養が身につく点です。
- 寛容性や多様性
- 探求すること
- 自分軸を持ち考えを述べること
- 主体性や積極性
- 責任感
私は海外に出てみて、
- あぁ、なんでこんなに会話の幅が狭いんだろう…
- 今まで何も考えず何も疑問に思わずに生きてきたのかもしれない…
と、同年代の諸外国の人と比べて知識や教養が浅い自分にショックを受けました。
海外の語学学校やインターナショナルスクールで働いて、日本人生徒や諸外国の留学生対応を経験し、主体性や行動力の違いは教育や育ってきた環境が大きく関係していると感じます。
3.圧倒的に視野が広がる
インターナショナルスクールに通うと、海外から日本に来ている生徒やダブル国籍の生徒と毎日を過ごすことになります。
生徒同士のバックグラウンドが異なれば考え方も異なり、その中で生活していると自然に日本以外の文化に触れますよね。
そして多様性のある環境では、自分とは違う文化や相手に対するリスペクトが非常に重要です。
リスペクトをするための第一歩は、まずは「知ること」。
幅広く物事を知ることは、視野が広がることにも繋がっていますが、初等教育から年月をかけて積み重ねると、青年になるころには大きな差がついているのです。
インターナショナルスクールのデメリット
インターナショナルスクールのデメリットには、以下のものがあります。
- 費用(学費)が高額
- 第一言語(日本語)が確立しない可能性
- 高等教育の授業についていけないことがある
- 日本の大学進学を考えるなら不利
- 英語の発音がいいことが不利になることがある
1.費用(学費)が高額
インターナショナルスクールの学費は、年間で約200万円です。
初年度は入学金もあるので、250万円前後になることもあります。
幼稚園から高校卒業までの14~15年間インターナショナルスクールに通わせると、学費だけで約2800~3000万円と、家が一軒建つほど高額です。
授業料は、
Kindergarten(キンダーガーテン:幼稚園)
↓
Elementary School(エレメンタリースクール :小学校)
↓
Middle School(ミドルスクール:中学)
↓
High School(ハイスクール:高校)
と、学年が上がるにつれて高くなっていきます。
その他にも、
- フィールドスタディ
- サマープログラム
- 修学旅行
などの行事に参加する際の費用も忘れてはいけません。
2.第一言語(日本語)が確立しない可能性
日本でインターナショナルスクールに通わせ、教育言語を「英語」にするデメリットは、第一言語である日本語が確立しない可能性がある点です。
幼稚園や小学校低学年の頃からインターナショナルスクールに通う場合は、自分の気持ちを「英語」で表現する方が得意になる子供が多いので、第一言語が英語になってしまえばそれはそれでOK!
ですが、小学校高学年あたりからインターナショナルスクールに通い始め数年経った時に、日本語でも英語でも言いたいことを完全に表現できないケースもあります。
もちろん、すべての子供がそうとは限りませんが、私の友人の帰国子女(日本語と中国語のネイティブ)は、「第一言語を日本語にする」と決めて猛勉強してやっと助詞(てにをは)を自然に使えるレベルになったと話していました。
3.高等教育の授業についていけないことがある
インターナショナルスクールで長年教育を受けている生徒の中には、高等教育あたりから英語の授業についていけなくなる生徒がいます。
海外から日本に来た非英語ネイティブの生徒や純日本人の生徒は、英語ネイティブの生徒に比べると英語力が弱いという理由で不利になりますが、もう一つ忘れてはいけないことは、インターナショナルスクールにも学力にレベルがあるという点です。
英語以外の科目(例えば理数系)が得意など、何かしらの強みを持っていれば「英語」という弱点をカバーすることは可能ですし、生徒本人の自信にも繋がります。
ですが、英語力がさほど伸びていないまま高度な授業を受けると、授業内容が理解できずついて行くことが難しくなり、最悪の場合留年になるケースもあるのです。
4.日本の大学進学を考えるなら不利
インターナショナルスクールへの問い合わせで、「将来的には日本の大学に進学させたいけど、今の時代は英語だから子供の頃から英語教育をさせたい」と希望している人が時々います。
ですが、インターナショナルスクールの課程を修了して日本の大学への進学を考える場合、
- 国際団体から認定を受けたインターナショナルスクールで通算12年の課程を修了
- IBDPに合格する
といった点をクリアしなければならないため、学校選びの段階から確かな情報を入手しなければいけません。
また、本来のインターナショナルスクールは英語で授業が展開されているため、日本の大学に行き日本語で授業を受けたい場合は「言語」で不利になります。
5.英語の発音がいいことが不利になることがある
幼少期の頃から英語を学ばせ、英語耳を作り、ネイティブのように綺麗な発音ができることは理想的です。
しかし、「発音がネイティブ並」というだけでは、将来ビジネスの現場に出た時に不利になるケースがあります。
ビジネスの場において大事なのは、発音の綺麗さよりも、高度な文章を組み立てて話すことができるかです。
極端な話、発音に日本語訛りがあっても、高度な言い回しができたり高度な文法を使える方が、英語の習得度合いを評価され頭の良さも伝わります。
「この人、英語は第二言語なのに、こんな難しい言い回しを使いこなせるんだ!」と、相手から一目置かれることも!
発音も大事な要素の一つではありますが、もっと大事なのは会話の中身です。
インターナショナルスクールに入れる注意点
子供が英語を話せるようになれば、学校生活は問題ない!と思われがちですが、実は保護者は子供の学校生活を支えるという大事な役割があります。
インターナショナルスクールに入れる前に考えないといけないことは以下の通りです。
- 学校からの案内や書類は全て英語
- 子供の学習サポートは可能か?
- 保護者同士の付き合い
- 子供がインターナショナルスクールになじめない可能性
- 日本語の教育に戻る選択肢
1.学校からの案内や書類は全て英語
まず前提として、インターナショナルスクールは英語を母国語とする子どものための教育機関なので、
- 校長・教頭先生からの文書(メール)
- 担任の先生からの連絡やクラス内の連絡
- 成績書類や推薦書
といった学校からの案内や書類はすべて英語です。
もちろん、日本のインターナショナルスクールには日本人スタッフが働いているので、入学前の問い合わせや学校見学は日本語で対応してもらえます。
またインターナショナルスクールには、日本に来たばかりで「日本語」も「英語」もできない外国人家庭からも問い合わせが来ますが、その場合、学校見学や入学試験には「通訳」が同行しているケースが多いです。
子供が入学試験に合格すれば、インターナショナルスクールに入学すること自体は可能。
ですが、保護者が英語の書類に対応できるかも検討するべきことの一つです。
2.子供の学習サポートは可能か?
インターナショナルスクールに通う子供は、英語で授業を受けます。
そこで考えなければいけないことは、家庭での学習サポートが可能かどうか。
特にエレメンタリー(小学生)の頃は、
- 算数の問題がわからない
- 問題文の意味が分からない(読解できない)
など、保護者の手助けを必要とする機会が多くあります。
3.保護者同士の付き合い
日本の学校と同じように、インターナショナルスクールでも保護者同士の付き合いがあります。
日本人の保護者も多いので、何かわからないことがあっても助け合うことは可能ですが、すべて日本語というわけにはいきません。
子供が特に仲良くなったクラスメイトの保護者が、両親とも日本人ではないこともあるので、日本語が通じないケースを想定しておきましょう。
4.子供がインターナショナルスクールになじめない可能性
幼少期の頃からプリスクールに通い、その後も引き続き英語で教育を受けるのなら、すでにインターナショナルな環境には慣れていると思うので、大きな問題はないかもしれません。
ですが、忘れてはいけないことは、学校によって「特色」があることです。
1学年1クラスの少人数制の学校もあれば、日本の学校と同じようにクラス分けのある学校もあったり、寮付きの学校もあります。
子どもの年齢に関係なく、学校に馴染めなくて自主退学する家庭もあるので、可能性として考えておかなければいけません。
5.日本語の教育に戻る選択肢
小学校高学年~中学生ぐらいの年齢になると、英語も日本語も中途半端で自分の考えや思っていることを言葉で表現できないケースが稀に出てきます。
とくに、「学校では英語、家では日本語」の家庭で見受けられる印象です。
そうなった時に考えなければいけないのは、日本語の教育に戻る選択です。
実際、「日本の学校に入れる選択肢はない」という考えの家庭の子供が、高校生になって高度な英語の授業についていけず、苦労している例もあります。
また、子供が「英語を話したくない」「英語で勉強したくない」と心の中で思っていることもあるので、子供の気持ちを優先させてあげましょう。
今後は英語が必要な人といらない人に分かれてくる
インターナショナルスクールで電話を取っていると、「今の時代は英語だから」という問い合わせ理由をよく聞きます。
英語教育自体は悪いことではないですし、そういった考えでインターナショナルスクールに入学させても問題なく英語を習得する子供はいるでしょう。
しかし、帰国子女や早期英語教育を受けている子供の中には、
- 保護者の海外転勤に帯同し英語が嫌いになった
- 英語が高度になるにつれて習得が難しくなった
- 海外やグローバル環境で活躍することに興味ない
という生徒が少なくありません。
幼少期の頃から英語に触れさせること自体は悪いことではありませんが、成長した後に英語に関わりたくないと感じる可能性も忘れてはいけません。
英語が嫌いにならない程度に楽しく勉強するところからはじめてみると、英語学習が長続きすることもあるので、併せて検討してみることをおすすめします。